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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)682号 判決

原告

伊東信子

外二名

代理人

富田晃栄

被告

林茂

代理人

江口保夫

外二名

主文

1  被告は、原告伊東信子に対し四万三〇〇〇円、原告安間友次に対し三万二五六〇円、原告滝下保に対し二〇万五〇〇〇円および右各金員に対する昭和四四年二月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを三分してその二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告は、原告伊東信子に対し三〇万二三二〇円、原告安間友次に対し二七万円、原告滝下保に対し四三万二〇〇〇円および右各金員に対する昭和四四年二月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

次の交通事故(以下本件事故という。)によつて、原告安間友次(以下原告安間という。)同滝下保(以下、同滝下という)は負傷し、原告伊東信子(以下、原告伊東という。)は後記乙車を損壊された。

1発生時 昭和四三年九月二一日午前一一時五分ごろ

2発生地 東京都中野区南台四丁目一二番六号先交差点(以下本件交差点という。)

3加害車 普通乗用自動車練馬五ふ五二六六号(以下、甲車という。)

運転者 被告

4被害車 普通貨物自動車品川四ふ八六七一号(以下、乙車という。)

運転者 原告安間

同乗者 原告滝下

5態様 出合頭、乙車の右側面に甲車の前部が衝突

(二)  責任原因

被告は、甲車を所有してこれを自己のために運行の用に供しているものであるが、甲車を運転して本件交差点に進入するに際し、右交差点の甲車の進入口には一時停止の標識が設置されているのにかかわらず、漫然と時速約四〇キロメートルで右交差点に進入した過失により本件事故を惹起したものであるから、原告安間、同滝下に対しては自賠法三条に基づいて、原告伊東に対しては民法七〇九条に基づいてそれぞれ原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 原告伊東分

原告伊東は、本件事故によつてその所有に属する乙車を損壊された。その損害額は次のとおり三〇万二三二〇円と算定される。

(1) 乙車修理費 二一万五三二〇円

仮に本件事故によつて損壊された乙車が修理に適しないものとすれば、右事故直前の乙車の時価相当額一一万円を請求する。

(2) 乙車引揚費 三〇〇〇円

(3) 代車借料 三万四〇〇〇円

本件事故により乙車が損壊されて使用できなくなつたため昭和四三年九月二三日から同年一〇月一日まで代車を使用した料金である。

(4) 弁護士費用 五万円

2 原告安間分

原告安間は、本件事故により加療に一〇日間を要する頭部切創、左腰部打撲傷の傷害を負つた。その損害額を算定すると、次のとおり二七万円となる。

(1) 休業損害 二万円

原告安間は、原告伊東方に鳶職人として勤め、日給二〇〇〇円を支給されていたが、前記傷害の治療に伴い一〇日間の欠勤を余儀なくされ、その間の得べかりし給与二万円を支給されなかつた。

(2) 慰謝料 二〇万円

(3) 弁護士費用 五万円

3 原告滝下分

原告滝下は、本件事故により六週間の安静加療を要する頸椎、捻挫、頭部、躯幹部、左上肢各切創の傷害を負つた。この損害額は次のとおり四三万二〇〇〇円である。

(1) 休業損害 八万二〇〇〇円

原告滝下は、原告伊東方に勤務して日給二〇〇〇円を支給されていたが、本件による事故治療に伴い四一日間欠勤を余儀なくされ、この間の給与八万二〇〇〇円を得ることができなかつた。

(2) 慰謝料 三〇万円

原告滝下は前記傷害に基因して原告伊東方における勤務を断念せざるを得なかつた。

(3) 弁護士費用 五万円

(四)  結論

よつて、被告に対し原告伊東は三〇万二三二〇円、原告安間は二七万円、原告滝下は四三万二〇〇〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年二月七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)項のうち冒頭の原告安間と原告滝下が負傷したことは不知。この発生地は東京都中野区南台三丁目五番である。その余の事実は認める。

(二)  同第(二)項のうち、被告に原告ら主張の如き過失があることは認める。

(三)  同第(三)項のうち1の冒頭の本件事故によつて原告所有の乙車が損壊したことは認めるが、1の(1)ないし2の(2)および3の(2)は否認し、その余の事実は不知。乙車の本件事故直前における時価は一一万円であり、事故後の残存価格(スクラップ代)は五〇〇〇円であるから、本件事故による乙車の車両損害は一〇万五〇〇〇円である。仮に乙車を修理するとしても、前記破損の状態からしてその費用は部品代五万一七九五円、工賃一一万一一〇〇円計一六万二八九五円を上廻ることはない。

(四)  同第(四)項は、争う。

三  抗弁

(一)  過失相殺

原告安間は、原告伊東の被用者であるが、同僚である原告滝下の同乗する乙車を運転して原告伊東の業務を執行中、交通整理の行なわれていない、左右の見通しの悪い本件交差点に進入するに際し徐行を怠つた過失があるから、原告安間および原告伊東の賠償額の算定にあたつてはもちろん、被害者グループに属する原告滝下の賠償額を算定するにあたつても、原告安間の右過失は斟酌されるべきである。

(二)  一部弁済

被告は、治療費と原告安間に対し四八〇〇円原告滝下に対し五万〇二五〇円を支払つた。

(三)  相殺

被告は本件事故によつてその所有に属する甲車を損壊され、その修理費として二二万五三八六円を支出した。そして原告伊東が民法七一五条により、原告安間が民法七〇九条によりそれぞれ被告の右損害を賠償する責任があることは前記のとおりであるから、被告は右原告両名に対してその過失割合分の損害賠償請求権を取得した。また、本件事故の際、乙車は本件交差点脇の訴外佐藤裕所有のブロック塀(以下本件ブロック塀という。)に接触してこれを損壊したので、被告は共同不法行為者として右佐藤に対しその修理費一万五五〇〇円全額を支払つたから、原告伊東、同安間に対し右原告両名の過失割合分の求償権を取得した。そこで、被告は、昭和四四年三月一二日の本件第一回口頭弁論期日において右損害賠償請求権および求償権をもつて第一次的に原告伊東の、第二次的に原告安間のそれと対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する答弁

(一)  過失相殺に対して

原告安間に過失があることは否認する。原告安間は乙車を運転して時速二〇キロメートルで本件交差点に進入したものであり、甲車の進路に一時停止の標識が設置されていること等の事情を考慮すると、本件事故の発生について原告安間に被告主張の如き過失はないというべきである。その余の事実は認める。

(二)  一部弁済に対して

争う。

(三)  相殺に対して

被告の主張する原告伊藤、同安間に対する債務は不法行為によつて生じたものであるから、被告は相殺をもつて右原告両名に対抗することは許されない。したがつて、被告の右抗弁は主張自体失当である。

理由

一(事故の発生および責任原因)

請求原因第(一)項の事実は、冒頭の原告安間と原告滝下の負傷および2の発生地を除いて当事者間に争いがなく、原告安間と原告滝下が本件事故によつて負傷したことは後記認定のとおりであり、また、本件事故の発生地が原告ら主張のとおりの地点であることは《証拠》によりこれを認めることができる《証拠判断・略》そして請求原因第(二)項のうち、被告に原告ら主張の如き過失があることは当事者間に争いがなく、被告が甲車の運行供用者であることについては被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすから、被告は原告安間、同滝下に対しては自賠法三条に基づいて、原告伊東に対しては民法七〇九条に基づいて原告らが本件事故によつて蒙つた各損害を賠償する責任がある。

二(損害)

1  原告伊東分

原告伊東が、本件事故によつてその所有に属する乙車を損壊されたことについては当事者間に争いがない。そしてその損害額は弁護士費用を別にして次のとおり一三万八〇〇〇円と算定されるが、本件事故の発生については後記のように原告安間にも過失があり、この過失は原告伊東の賠償額の算定にあたつても斟すべきであるから、原告伊東が被告に対し賠償を請求しうる右の損害額は九万六六〇〇円とするのが相当である。

(1)乙車の車両損害 一〇万五〇〇〇円

《証拠》によれば、原告伊東は昭和四三年九月三〇日ごろ訴外トヨタ中古自動車販売株式会社五反田営業所において本件事故によつて損壊した乙車の修理費を見積らせたところ、二一万五三二〇円であつたことが認められるが、《証拠》によれば、本件事故直前における乙車の時価は一一万円であり、事故後の残存価格は五〇〇〇円であつたので、原告伊東と被告との間で乙車を修理するか廃車にするかをめぐつて話し合いがなされ、原告伊東は結局乙車を修理しないままに代車を買い入れたことが認められるから、本件事故における乙車の損壊による損害は前記時価から残存価格を控除した一〇万五〇〇〇円とすべきである。

(2)乙車引揚費等 三〇〇〇円

《証拠》によれば、原告伊東は訴外荻野モータースに対し乙車の引揚費等として右金額を支払うべき債務を負担したことが認められる。

(3)代車借料 三万円

《証拠》によれば、原告伊東は、鳶川村の名称で土木建築業を営み、右事業に乙車を使用していたところ本件事故において乙車を損壊されて使用することができず、代車を購入するまでの工事現場への資材の運搬のために昭和四三年九月二三日から同年一〇月一日まで訴外高木運送有限会社にその運送を依頼することを余儀なくされ、その運賃として右訴外会社に三万四〇〇〇円の債務を負担したことを認めることができる。そして前記の乙車を修理するか廃車にするかについて原告伊東と被告間に話合いがなされていたことおよび代車購入への資金調達にはある程度の期間を要することを考慮すると、右期間は相当であつて、ただ右資材の運搬に乙車を使用した場合には燃料費、人件費等の必要経費を要することを斟酌すると、右運賃は三万円の限度でこれを認めるのを相当とする。

2  原告安間分

《証拠》によれば、原告安間は本件事故により頭部切創、左腰部打撲傷の傷害を負い、昭和四三年九月二一日から同月二六日までの間黒須外科病院に五日通院して治療を受けて治癒したことが認められる。そこでその損害額を算定すると、弁護士費用を別にして以下のとおりであるが、本件事故の発生については原告安間にも後記の如き過失があるからこれを(1)の休業損害と後記四の治療費の合計額二万四八〇〇円について斟酌すると、原告安間が被告に対し賠償を請求しうる右費目に関する損害額は一万七三六〇円とするのが相当である。

(1)休業損害 二万円

《証拠》によれば、原告安間は原告伊東方に勤め、日給二〇〇〇円を支給されていたが、前記傷害の治療に伴い昭和四三年九月二二日から同年一〇月一日まで一〇日間欠勤してその間得べかりし給与二万円を得ることができなかつたことが認められる。

(2)慰謝料 一万六〇〇〇円

原告安間の前記傷害の部位・程度、原告安間の後記過失その他諸般の事情を考慮すると、本件事故による原告安間の慰謝料額は一万六〇〇〇円とするのが相当である。

3  原告滝下分

《証拠》によれば、原告滝下は本件事故によつて頸椎捻挫、頭部・躯幹部・左上肢切創の傷害を負い、前記病院に昭和四三年九月二一日から同年一〇月三日まで入院し、退院後も同月四日から同年一一月一九日まで七日通院して治療を受けたことが認められる。そしてその損害額は弁護士費用を別として次のとおり算定される。

(1)休業損害 八万円

《証拠》によれば、原告滝下は原告伊東方に勤め日給二〇〇〇円を支給されていたが、前記治療に伴い昭和四三年九月二一日から約四〇日間欠勤してその間の給与八万円を得ることができなかつたことが認められる。

(2)慰謝料 一〇万円

《証拠》によれば、原告滝下は前記退院後も暫くの間欠勤し、その後も前記傷害によりしばしば欠勤することを余儀なくされたがそのため仕事仲間に迷惑をかけたことを気にして原告伊東方を辞めたことが認められ、このような事情に原告滝下の前記傷害の部位・程度等諸般の事情を考慮すると、本件事故による原告滝下の慰謝料額は一〇万円が相当である。

三(過失相殺)

本件交差点の甲車の進入口に一時停止の標識が設置されていることおよび被告が甲車を運転して漫然と時速約四〇キロメートルで本件交差点に進入したことについては当事者間に争いがない。そして《証拠》によれば、次の事実を認めることができる。

本件交差点は、北方、中野通り方面から本件交差点に通じ、本件交差点において一メートル数十センチメートルほど西にずれて本件交差点から南方、環状七号線方面に通ずる歩車道の区別のない幅員5.30メートルの平坦な舗装道路と西方、栄町通り方面から東方、甲州街道方面に通じ、西方から本件交差点に通ずる部分が幅員5.45メートル、本件交差点から東方に通ずる部分が幅員5.05メートルの歩車道の区別のない平坦な舗装道路がそれぞれほぼ直角に交差する交通整理の行なわれていない、左右の見通しの困難な交差点であつて、東方から右交差点への進入口にも一時停止の標識が設置されており、交差点の四隅は隅切りになつている。原告安間は乙車を運転して南北道路を、乙車の中心線を道路の右側端と1.7メートルの間隔を置いて南進し、以前にも本件交差点を通行したことがあり、東西道路に一時停止の標識が設置されていることを知つていたので、左右の安全を十分に確かめないまま時速約二〇キロメートルで本件交差点に進入し直進しようとした。他方、被告は甲車を運転して東西道路を、甲車の中心線を道路左側端と1.35メートルの間隔を置いて東進し、本件交差点の甲車の進入口付近に一時停止の標識が設置されていることを知つていたが交通が閑散なことに気を許し警音器を一度吹鳴しただけで前記速度で本件交差点に進入した直後左方の道路から本件交差点に進入した直後の乙車を左前方約7.12メートルの地点に発見して衝突の危険を感じ咄嗟に急制動の措置をとつたが制動がききはじめたかその直前位に甲車の前部を乙車の運転台右側ドアー付近に衝突させた。乙車は右衝突の衝撃により左前方に右に廻転しながら暴走してその左側面を本件交差点の東南の隅切りに設置されている本件ブロック塀に衝突して停止した。

《証拠判断・略》。そうとすれば、原告安間には道交法一七条三項あるいは同条四項二号に定める通行区分に違反したうえ、徐行義務を怠り、しかも右方の安全確認を十分にしなかつた過失があるというべきであり、原告安間が原告伊東の被用者でその業務を執行中本件事故を惹起したものであることについては当事者間に争いがないから、原告伊東および原告安間の賠償額を算定するにあたつて原告安間のこの過失は斟酌されなければならない。そして原告安間の右過失と被告の前記過失を対比すると、その割合はおおよそ前者の三に対し後者の七と認めるのが相当である。ところで、被告は、原告滝下の賠償額を算定するにあたつても原告安間の右過失を斟酌すべきである旨主張し、原告滝下が原告安間の同僚であり、原告伊東の業務を執行であつたことは当事者間に争いないところであるが、それだけでは原告滝下の賠償額について過失相殺をすべき事由とはなり得ないというべく、その他本件全証拠によるも原告滝下の賠償額について過失相殺をすべき事由を見出すことはできないから、被告の右主張は理由がない。

四(一部弁済)

《証拠》によれば、被告は原告安間に対し治療費として四八〇〇円を弁済したことが認められるところ、身体侵害による損害賠償請求においては特段の事情のない限り弁済の充当に関する当事者の主張は意味がないので、右弁済金は原告安間の以上の損害額三万三三六〇円について填補されたとみるべきである。なお、原告滝下に対する一部弁済の抗弁は本訴請求外の損害に対する弁済であるところ原告滝下の賠償額については前記のとおり過失相殺をしないから事実の判断をするまでもなく理由がない。

五(弁護士費用)

以上のとおり被告に対し原告伊東は九万六六〇〇円、原告安間は二万八五六〇〇円、原告滝下は一八万円を請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告は任意の弁済に応じないので原告らは弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し着手金および報酬として各五万円を支払う債務を負担したことが認められるが、本件事案の難易、前記認容額等本訴にあらわれた一切の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に負担させるべき弁護士費用はうち原告伊東について一万四〇〇〇円、原告安間について四〇〇〇円、原告滝下について二万五〇〇〇円とするのが相当である。

六(相殺)

債務が不法行為によつて生じたものであるときは、その債務者は相殺をもつて債権者に対抗することができず(民法五〇九条)、ただ債務が同一の不法行為によつて生じたときは右法条の趣旨に照らし例外的に債務者は相互に相殺をもつて対抗することができると解される。そして被告の主張する、原告伊東、同安間に対する債務は不法為行によつて生じたものであり、被告が訴外佐藤裕に対し本件ブロック塀の修理費全額を弁済したことによつて取得した求償権(共同不法行為者たる被告と原告伊東、同安間の訴外佐藤裕に対する債務は不真正連帯の関係にあると解されるが、不真正連帯債務においても債務者間に負担部分があることを否定することはできないというべく、そして債務者の一人が債権者に自己の負担部分を超える弁済をなしたときは、他の債務者に対して求償権を行使できると考えられるから、被告の右佐藤に対する弁済が認められる場合には、原告伊東、同安間に対し求償権を行使しうるものである。)をもつてする部分は、右の例外の場合に該当しないから、主張自体失当というべきである。これに対し本件事故によつて損壊した乙車の修理費の賠償請求権をもつてする部分は正に右の例外の場合に該当するものであるところ、《証拠》によれば、被告は本件事故によつてその所有に属する乙車を損壊され、その修理費として二二万五三八六円を支出したことが認められ、原告伊東の被用者である原告安間が原告伊東の業務を執行中過失によつて本件事故を惹起したものであることおよび右事故の発生については被告にも七割方の過失があることは前記のとおりであるから、被告は原告伊東に対し六万七六〇〇円の損害賠償請求権を有しているというべく、被告が昭和四四年三月一二日の本件第一回口頭弁論期日において右請求権をもつて原告伊東の本訴損害賠償請求権と対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは記録上明らかであるので、被告の相殺の抗弁は右の限度で理由があるといわなければならない。

七(結論)

よつて、原告らの被告に対する本訴請求のうち、原告伊東において四万三〇〇〇円、原告安間において三万二五六〇円、原告滝下において二〇万五〇〇〇円および右各金員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四四年二月七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分はいずれも理由があるから認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(並木茂)

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